F1第13戦イタリアGPが、9月4日からモンツァ・サーキットで始まります。決勝は9月6日(日)です。
モンツァは「速さの殿堂」と呼ばれます。ファンにとっては、スリップストリーム勝負とトップスピードのコースです。
ただ、潤滑油を扱う立場から見ると、このサーキットはまったく別の顔を持っています。F1のエンジンオイルにとって、1年のカレンダーのなかで最も条件の厳しい場所のひとつです。
そして2026年は、パワーユニット規定が刷新された最初のシーズンでもあります。今年のモンツァは、これまでとは違う難しさを抱えています。
モンツァというコースの特殊性
モンツァのレイアウトは、長いストレートを浅いコーナーでつないだ構成です。その結果、1周のうちスロットルを全開にしている時間の割合が、カレンダー中でも突出して高くなります。
低抵抗と冷却は相反する
各チームは、このレースだけダウンフォースを大きく削った専用のセッティングを持ち込みます。空気抵抗を減らして最高速を伸ばすためです。
ただし、ダウンフォースを削るということは、冷却のための空気の取り入れ方も見直すということです。低抵抗の追求と冷却の確保は、基本的に相反します。
極端な加減速が繰り返される
モンツァでは、ストレートエンドからシケインへ、数百キロの速度域から一気に減速します。この強い前後方向のG、そしてコーナーでの横方向のGは、エンジン内部のオイルにも作用します。
競技車両がドライサンプ潤滑を採用する理由のひとつがここにあります。
オイルパンに油を溜める通常の方式では、強いGがかかったときに油が片側へ寄ります。ポンプが油を吸えなくなる瞬間が生まれる可能性があるためです。ドライサンプは油を別のタンクで管理してこれを避け、同時にクランクシャフトがオイルを撹拌する損失も減らします。
全開が続く環境で、F1のエンジンオイルは何を求められるか
高回転・高負荷の状態が長く続くとき、オイルには複数の役割が同時に要求されます。
潤滑
軸受けやピストンリングの摺動部で油膜を保つことです。油温が上がるほど粘度は下がります。最も油膜が薄くなる条件で、どれだけ保持できるかが問われます。
冷却
これが見落とされがちですが重要です。ピストンの裏側にはオイルジェットから油が吹きつけられ、燃焼で受けた熱を運び去っています。
オイルは冷却液としても働いています。 ダウンフォースを削って冷却の余裕が小さいモンツァでは、この役割の比重が上がります。
清浄
高温下で生成する堆積物を分散させ、狭い油路やオイルジェットの目詰まりを防ぐことです。
これらを、酸化が急速に進む高温環境で、レース距離にわたって維持する。F1のエンジンオイルと市販車のオイルでは時間軸も条件もまったく異なりますが、要求されている機能そのものは同じです。
内部リンク:猛暑を走り切ったエンジンオイルに何が起きているか →
2026年の新規定がF1のエンジンオイルに与えた影響
今シーズンから、パワーユニット規定は大きく変わりました。潤滑の観点から意味を持つ変更が3つあります。
MGU-Hの廃止と電動比率の上昇
排気熱からエネルギーを回生していたMGU-Hが廃止されました。代わりに、運動エネルギーを回生するMGU-Kの出力が大幅に引き上げられています。内燃エンジンと電動モーターの出力比率は、ほぼ同等になりました。
一方で、走行中に回生できる電気エネルギーには上限が定められています。その限られたエネルギーをどこで使うかが、レースを左右する要素になりました。
ストレートが長いモンツァは、この電気エネルギーの管理が最も難しいコースのひとつです。 ストレート後半でエネルギーを使い切ってしまう状況にどう対処するか。今年のこのレースの見どころになります。
電動系の比重が上がるということは、モーターやインバーター、バッテリーの熱管理が性能に直結するということでもあります。これは市販車の電動化で起きていることと同じ構図です。
100%持続可能燃料
2026年から、燃料は非可食性の植物由来、廃棄物由来、あるいは持続可能な方法で回収された炭素を原料とするものに限定されました。燃料流量も、質量ではなくエネルギー量を基準に制限されます。
潤滑油にとって、これは無視できない変更です。
燃焼せずにシリンダー壁を伝ってオイルに混入する燃料の性質が変われば、希釈の挙動も、添加剤との相互作用も変わります。
燃料が変わるとき、潤滑油も併せて設計し直す必要がある。これはF1に限った話ではありません。市販車の分野でバイオ燃料や合成燃料の議論が進むときに、必ず出てくる論点です。
空力の刷新
空気抵抗を大きく削り、走行中にフロントとリアのウイングを動かすアクティブエアロが導入されました。もともと低抵抗を追求するコースであるモンツァで、これがどう機能するのか。今年のモンツァが注目される理由のひとつです。
レースで得られた知見は、どこへ向かうのか
モータースポーツの潤滑技術と市販製品の関係は、しばしば単純化されて語られます。「レースで勝ったオイルだから市販車にも良い」という論法です。
これは正確ではありません。 設計目標がそもそも違うからです。
ただし、実際に還流している技術的なテーマはあります。
低粘度化と保護性能の両立
摩擦損失を減らすために粘度を下げたい。しかし油膜は保たなければならない。
この相反する要求は、F1が長年取り組んできたテーマです。そして、そのまま市販車の省燃費オイルが直面している課題でもあります。日本で0W-20や0W-16、さらに低粘度のグレードが普及してきた背景にも、同じ技術的な問いがあります。
過酷な条件下での粘度安定性
高温高せん断の環境で、どれだけ設計どおりの粘度を保ち続けられるか。
レースでは1レース分、市販車では交換インターバル分という時間軸の違いはあります。それでも、評価している性質は同じです。
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RAVENOLとモータースポーツ
RAVENOLは、ドイツ・ヴェストファーレンに拠点を置く潤滑油メーカーです。長年、モータースポーツの現場に製品を供給してきました。
2024年からはニュルブルクリンク24時間レースの冠スポンサーを務めています。 レースの正式名称は「ADAC RAVENOL 24h Nürburgring」です。2026年5月の第54回大会では、メルセデスAMG・チーム・ラベノールの80号車 Mercedes-AMG GT3 Evo が総合優勝しました。
加えて、2025年のル・マン24時間レースでは、Iron Lynx(Mercedes-AMG LMGT3)とProton Competition(Ford Mustang LMGT3)に製品を供給しています。
レースの現場で得られる知見は、限界条件でのデータという意味で、市販製品の開発において代えのきかない価値を持ちます。
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