オイルの基礎知識

5W-30と0W-20は何が違う? エンジンオイルの粘度表示とメーカー承認規格の読み方

エンジンオイルの「5W-30」の数字が何を表すのか、SAE・API・ACEA・メーカー承認という4つの階層をどう読むのかを解説。輸入車で「承認」と「相当品」を混同すると何が起きるのか、取扱説明書のどこを見ればいいのかまで整理します。

5W-30と0W-20は何が違う? エンジンオイルの粘度表示とメーカー承認規格の読み方

エンジンオイルの粘度は、「5W-30」「0W-20」といった表示で示されます。ところがこの数字が何を意味するのかを正確に説明できる人は、意外と多くありません。

「数字が小さいほどサラサラ」という理解でも半分は合っています。ただ、その理解のままオイルを選ぶと、車両にとって適切でない製品を買ってしまうことがあります。

さらに厄介な点があります。粘度が合っていても使えないオイルがあるということです。とくに輸入車では、粘度以上に「メーカー承認」が重要になります。

この記事では、缶やラベルに書かれている情報を4つの階層に分けて整理します。

エンジンオイルの粘度表示「5W-30」が意味するもの

この表記は、SAE(米国自動車技術会)が定めたSAE J300という粘度分類にもとづきます。

粘度、つまり油の流れにくさだけを表しています。 オイルの品質や性能を示すものではありません。ここが最初の重要な区別です。

前の数字:低温での流動性

「W」はWeight(重さ)ではなく、**Winter(冬)**の頭文字です。

前の数字が示すのは2つです。低温でエンジンを始動できるか。そして始動直後に、オイルポンプが油を吸い上げて各部へ送れるか。

判定は「規定された温度で基準値以内の粘度に収まっているか」という形式で行われます。つまりこの数字は、粘度そのものの値ではありません。限界温度の等級です。

表示低温クランキング粘度の測定温度低温ポンピング粘度の測定温度
0W−35℃−40℃
5W−30℃−35℃
10W−25℃−30℃
15W−20℃−25℃
20W−15℃−20℃
25W−10℃−15℃

数字が小さいほど、より低い温度まで流動性が確保されています。0Wと5Wの差は「サラサラ具合」ではありません。この限界温度が5℃違うということです。

日本の平地であれば、5Wでも実用上ほぼ問題はありません。ただし始動直後、油圧が立ち上がるまでの時間は摩耗が起きやすい局面です。寒冷地や冬季の短距離走行が多い使い方では、0Wの側に余裕があります。

後ろの数字:高温での粘度

後ろの数字は、100℃における動粘度の範囲で区分されます。あわせて150℃・高せん断条件下での粘度(HTHS粘度)に下限が設けられています。

HTHS粘度は、油膜が最も薄くなる過酷な条件での保持力を示す指標です。近年は、こちらのほうが実質的な意味を持ちます。

表示100℃動粘度(mm²/s)HTHS粘度の下限(mPa·s)
84.0以上 5.0未満1.7
125.0以上 6.1未満2.0
166.1以上 6.9未満2.3
206.9以上 9.3未満2.6
309.3以上 12.5未満2.9
4012.5以上 16.3未満3.5〜3.7
5016.3以上 21.9未満3.7
6021.9以上 26.1未満3.7

気づいてほしいのは、「30」という枠が持つ幅の広さです。

100℃動粘度で9.3から12.5まで許容されています。そのため、同じ「5W-30」でも製品によって性格が異なります。

さらに、ACEA C3のように「HTHS粘度3.5以上」を要求する規格に適合した5W-30は、一般的な5W-30より高温側で明確に粘度が高い設計です。エンジンオイルの粘度表示が同じでも、中身は同じではありません。

よくある3つの誤解

「0W-20は薄いからエンジンが守れない」 0W-20を指定する車は、その粘度を前提に設計されています。軸受けクリアランス、オイルポンプの吐出量、油路の径。設計より高い粘度を入れれば守られる、という関係ではありません。

「夏は硬いオイル、冬は柔らかいオイル」 マルチグレードオイルが普及した現在、この使い分けは基本的に不要です。指定粘度は通年で使える範囲として設定されています。

「後ろの数字は最高油温での粘度」 100℃時点の区分です。実際の油温は条件によって100℃を大きく超えます。その領域での挙動を示すのがHTHS粘度です。

内部リンク:猛暑を走り切ったエンジンオイルに何が起きているか →

粘度だけでは選べない|規格の3層構造

粘度が合っていても、そのオイルが車両に適合するとは限りません。ラベルには通常、粘度以外に2〜3種類の規格が併記されています。

第1層:SAE(粘度のみ)

前述のとおり、粘度の分類だけを扱います。性能については何も保証しません。

第2層:API / ILSAC(主に日本車・北米車)

APIは米国石油協会によるサービス分類です。ガソリンエンジン用は「S」+アルファベット1文字で表されます。

2025年3月末に施行されたSQが現行の最新規格で、SAから数えて14段階目にあたります。

SQおよびILSAC GF-7で強化されたのは、次の項目です。低速プレイグニッション(LSPI)に対する保護、タイミングチェーンの摩耗防止、ピストンやターボチャージャーの高温デポジット防止、スラッジの抑制、燃費性能の向上、排出ガス制御システムの保護。GF-7には、粘度で区分されたGF-7AとGF-7Bの2種類があります。

APIとILSACの関係も整理しておきます。APIが総合的な性能規格、ILSACはそのうち省燃費性能に関する要求を定めたものという位置づけです。ILSAC規格には対応する粘度に上限があり、低粘度側のグレードに限られます。

規格は上位互換が基本です。ただし車両側が新しい規格を要求している場合、古い規格のオイルを使うことは適合しません。

第3層:ACEA(欧州車)

ACEA(欧州自動車工業会)の規格は、日本ではAPIほど知られていません。しかし輸入車を扱う上では避けて通れません。カテゴリは大きく3系統あります。

  • A/B系列:ガソリンおよび乗用ディーゼル用の一般カテゴリ
  • C系列:排出ガス後処理装置に対応したカテゴリ(C1〜C6)
  • E系列:大型ディーゼル用

実務で重要なのはC系列です。鍵になる概念が**SAPS(硫酸灰分・リン・硫黄)**です。

オイルの清浄成分や耐摩耗成分に含まれるこれらの元素は、DPF(ディーゼル微粒子フィルター)やGPF、三元触媒に堆積して機能を損ないます。そのためC系列では、SAPSの含有量に上限が設けられています。

たとえばACEA C3はミドルSAPSに分類され、HTHS粘度3.5以上を要求します。 DPFを備えたディーゼル車や、GPFを持つ直噴ガソリン車を考えてみてください。C3適合品ではなくSAPSの多いオイルを使い続けると、フィルターの目詰まりを早める可能性があります。

ここは粘度の話ではありません。後処理装置の保護の話です。

内部リンク:ACEA規格の読み方 ― C1からC6まで →

輸入車で決定的になる「メーカー承認」

ここが、この記事で最も伝えたい部分です。

「承認」と「相当」「準拠」はまったく違う

自動車メーカーは、自社エンジンでの実機試験を含む独自の試験プログラムを持っています。それを通過したオイルにだけ承認(Approval)を与え、承認品リストに掲載します。

一方で市場には、「VW 504 00相当」「BMW LL-04準拠」「メーカー規格をクリア」といった表現の製品が存在します。これらは承認を取得していないという意味です。

処方が近いだけの場合もあります。試験を受けていないだけで実質的に同等の場合もあります。いずれにしても、メーカー側の検証を経ていないという点は変わりません。

実際に問題になる2つの場面

保証やメンテナンス記録との関係。 指定オイルの使用が前提となっているサービスプログラムで承認外のオイルを使用していた場合、エンジン内部の不具合が発生した際の扱いが不利になる可能性があります。

ロングライフサービスとの関係。 長い交換インターバルは、その期間にわたって性能を維持できることを試験で確認した承認オイルを前提に設定されています。承認外のオイルで同じ距離を走らせるのはリスクがあります。

購入時は、ラベルやTDS(製品技術資料)の表記を確認してください。「Approval」「承認取得」なのか、「meets requirements」「相当」なのか。この2語の差が、実質的な差です。

代表的なメーカー承認規格

メーカー主な承認規格主な位置づけ
フォルクスワーゲングループVW 504 00 / 507 00ガソリン/ディーゼル兼用、ロングライフ対応、ミドルSAPS
VW 508 00 / 509 00低粘度・省燃費指向。504 00/507 00とは互換ではない
BMWBMW Longlife-01 / -04LL-04はDPF・GPF搭載車向け
BMW Longlife-17 FE+ 等省燃費指向の低粘度カテゴリ
メルセデス・ベンツMB-Approval 229.51 / 229.52後処理装置対応。229.52は省燃費性を強化
ポルシェPorsche C30 / C20 / A40C30はミドルSAPS系、A40は従来型エンジン向け

注意すべき点は、これらが上位互換ではないことです。VW 508 00は504 00の後継や上位版ではなく、対象エンジンが異なる別カテゴリです。「新しい方が良い」という考え方は通用しません。

内部リンク:

RAVENOLの場合

RAVENOL HLS 5W-30は、BMW LL-04、MB 229.51 / 229.52の正式承認を取得しています。

輸入車オーナーが製品を選ぶときは、この承認の並びを見ることが、粘度を見ることと同じくらい重要になります。

内部リンク:車種からオイルを選ぶ →