ACEA規格は、輸入車のオイルラベルに「ACEA C3」「ACEA A3/B4」といった形で表記されています。ただしAPI規格に比べると日本語の解説が少なく、何を意味しているのか分かりにくい部分です。
しかし欧州車に乗っているなら、この記号は無視できません。とくにC系列は、排出ガス後処理装置の寿命に直結する内容を扱っているからです。
そこでこの記事では、2つの軸で整理します。すなわちSAPSとHTHS粘度です。つまりこの2つが分かれば、C1からC6までの違いは一気に見通せます。
ACEA規格とは何か ― APIとの役割の違い
まずACEAは欧州自動車工業会の略称で、欧州の自動車メーカーが集まった団体です。そして同団体が公表している「オイルシーケンス」が、一般にACEA規格と呼ばれています。
想定しているエンジンが違う
たとえばAPIとILSACは、北米・日本市場のエンジンを主な前提としています。
一方でACEAは、欧州のエンジンの要求を反映しています。なぜなら欧州はディーゼル比率が高く、後処理装置を早くから搭載してきた市場だからです。
運用面の違い
さらにもうひとつ、重要な違いがあります。実はACEAは、個々の製品に認証を発行する機関ではありません。
具体的には、潤滑油メーカーが定められた試験を実施し、品質管理の枠組みに従ったうえで適合を表明する構造です。
つまり「ACEA C3」という表記は、メーカーの自己表明にあたります。したがって後述する自動車メーカーの承認とは、性質がまったく異なります。
内部リンク:粘度表示とメーカー承認規格の読み方 →
ACEA規格の3つの系統
まずACEA規格は、大きく3系統に分かれています。
| 系統 | 対象 |
|---|---|
| A/B | 乗用車のガソリンおよび軽負荷ディーゼル。従来型のカテゴリ |
| C | 排出ガス後処理装置に対応したカテゴリ |
| E | 大型ディーゼル(商用車) |
このうち乗用車オーナーが関わるのは、A/BとCです。そして現在流通している欧州車の多くは、C系列を指定しています。 なぜならDPFやGPF、三元触媒を搭載しているからです。
一方でA/B系列は、後処理装置への配慮が必須ではないカテゴリです。したがってSAPSの制限がありません。具体的には、年式の古い車両や後処理装置を持たない車両で指定されます。
SAPSとは何か、なぜ制限されるのか
つまりC系列を理解する鍵が、ここにあります。
まずSAPSは、硫酸灰分(Sulphated Ash)、リン(Phosphorus)、硫黄(Sulphur)の頭文字を取った略語です。
本来は必要な成分です
もちろんこれらの成分は、オイルにとって必要なものです。具体的には清浄分散剤や耐摩耗剤として機能し、エンジン内部を清浄に保ち、摩耗を防いでいます。つまり性能を出すためには、本来なら多く入れたい成分です。
問題は排気側にあります
ところが燃焼室に入ったオイルの一部は、排気とともに後処理装置へ流れ込みます。
- 灰分はDPFやGPFに堆積し、フィルターを目詰まりさせます。しかも堆積した灰分は再生処理でも除去できません
- リンは三元触媒の活性を低下させます
- 硫黄も同様に触媒性能に影響します
要するにC系列は、エンジン保護と後処理装置保護のトレードオフのなかで、後者を守るために成分を制限したカテゴリです。そのため制限のなかで性能を出す必要があり、処方の難易度は上がります。
3つの呼び分け
なお制限の度合いによって、次のように呼び分けられます。
- Low SAPS:制限が最も厳しい
- Mid SAPS:中程度の制限
- Full SAPS:制限なし(A/B系列)
C1からC6まで ― HTHS粘度で性格が分かれる
次にもうひとつの軸が、HTHS粘度です。これは150℃・高せん断条件で測定される粘度で、油膜が最も薄くなる状況での保持力を示します。
そしてこの2軸で整理すると、C系列は次のように並びます。
| カテゴリ | SAPS | HTHS粘度 | 性格 |
|---|---|---|---|
| C1 | Low | 2.9以上 | 灰分制限が最も厳しい。対応する車種は限定的 |
| C2 | Mid | 2.9以上 | 省燃費指向 |
| C3 | Mid | 3.5以上 | 日本の輸入車で最も遭遇するカテゴリ |
| C4 | Low | 3.5以上 | 灰分制限が厳しく、かつ粘度も確保 |
| C5 | Mid | 2.6〜2.9 | さらなる省燃費指向 |
| C6 | Mid | 2.6〜2.9 | 省燃費に加え、近年のエンジン課題に対応 |
ちなみにC6は、比較的新しく追加されたカテゴリです。具体的には低速プレイグニッション(LSPI)やタイミングチェーンの摩耗といった、近年のダウンサイジング直噴ターボエンジンで顕在化した課題への対応が織り込まれています。
そして日本で最も目にするのはC3です。 なぜならミドルSAPSでHTHS粘度3.5以上という組み合わせは、後処理装置を保護しつつ高負荷にも耐える設計だからです。実際、欧州メーカーの多くの車種がこの領域を指定しています。
なおドイツ車の主要なメーカー承認の多くも、技術的にはC3に近い領域にあります。
数字の大小は上位・下位を意味しない
ところが、ここが最も誤解されやすい点です。
まずC1からC6という並びは、性能の順位ではありません。つまりSAPSの制限度合いとHTHS粘度の組み合わせが違うだけの、並列のカテゴリです。
実際、表を見れば分かるとおり、C3とC5ではHTHS粘度の要求が明確に異なります。
たとえばC3指定の車にC5適合のオイルを入れれば、高温高せん断条件で設計が想定した粘度を下回る可能性があります。逆にC5指定の車にC3のオイルを入れれば、省燃費性能が想定どおりに出ません。
したがって数字が大きいほうが新しくて良い、という発想は通用しません。 要するに自分の車がどのカテゴリを指定しているか、それだけが判断基準です。
ちなみに同じ構造の誤解は、他のメーカーの承認番号でも起きます。たとえば508 00は504 00の上位版ではなく、BMW LL-17 FE+もLL-04の上位版ではありません。
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ACEA規格とメーカー承認、どちらを優先するか
まず答えは明確です。メーカー承認が指定されている場合は、そちらが優先します。
なぜなら第1章で触れたとおり、性質が違うからです。つまりACEA規格は潤滑油メーカーによる適合の表明であるのに対し、メーカー承認は自動車メーカーが自社の試験を通過した製品に与えるものです。要するに検証の主体が違います。
判断の順序
そこで実務的には、次の順序で考えてください。
- 取扱説明書にメーカー承認(VW 504 00、MB 229.51、BMW Longlife-04など)の指定があるか
- あれば、その承認を取得した製品から選ぶ
- 承認の指定がなくACEA規格のみが指定されている場合は、そのカテゴリに適合した製品から選ぶ
ただし**「ACEA C3適合だから、C3相当を指定するどの車にも使える」とは限りません。** なぜならメーカー承認は、C3の要求に加えて独自の項目を課している場合があるからです。
自分の車の指定を調べる
まず取扱説明書の「エンジンオイル」または「サービスデータ」の項を開いてください。そして欧州車の場合、粘度と並んでACEAカテゴリまたはメーカー承認が指定されているはずです。
なお、日本車にACEA規格が指定されることはほとんどありません。 つまり国内向けの日本車は、基本的にAPIとILSACで指定されます。ただし欧州向けに生産された車両や一部の輸出仕様では例外があります。
そのうえで判断に迷う場合は、車台番号を伝えてディーラーまたは輸入車を扱う整備工場に確認してください。なぜなら年式とエンジン形式で指定は変わるからです。
RAVENOLでACEA規格に対応する製品
そこで前章で説明した判断の順序に沿って、整理します。
メーカー承認が指定されている場合
まずRAVENOL HLS SAE 5W-30 は、BMW LL-04およびMB 229.51 / 229.52の正式承認を取得しています。
確かにこれらの承認は、本記事で説明したC3の領域にあたります。ただし承認はC3の要求に加えて独自の項目を課しているため、より限定的な条件を満たしていることになります。
さらに、加減速が激しいシビアコンディション下でも熱劣化を抑え、安定した油膜を維持する設計です。
ACEA C2が指定されている場合
一方でRAVENOL FEL — Fuel Economy Low SAPS SAE 5W-30 は、ACEA C2に適合したMid SAPS設計の製品です。なおJASO DL-1にも適合しています。
具体的には、DPFの目詰まりと排圧上昇を抑制し、過酷な連続走行でも排気後処理システムを保護します。つまり本記事の第3章で説明した「制限のなかで性能を出す」という設計が、そのまま製品になっています。
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