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オイルの価格はなぜこんなに違うのか ― 日本ではあまり知られていない「メーカー承認」という物差し

オイル交換の価格は、なぜ数千円から数万円まで開くのか。欧州では当たり前の「メーカー承認」とは何か、 日本の規格との違い、そしてTDSで何が確認できるのかまで解説します。

オイルの価格はなぜこんなに違うのか ― 日本ではあまり知られていない「メーカー承認」という物差し

同じ4Lのエンジンオイルが、2,000円で売られていることもあれば、20,000円のこともあります。10倍の差です。

車の消耗品で、ここまで価格が開くものはそう多くありません。そして多くの場合、その理由は説明されないままです。

この記事では、価格差がどこから生まれるのかを分解します。そのなかで、日本ではあまり知られていない「メーカー承認」という物差しについても、詳しく説明します。欧州では当たり前のこの仕組みが、実は価格差の大きな理由のひとつだからです。

外部リンク:メルセデスベンツ承認オイル

オイル交換の価格を分ける3つの要素

1. ベースオイル

まずオイルの8割から9割は、ベースオイルです。つまりここが原価の大部分を占めます。

APIはベースオイルを5つのグループに分類しています。ざっくり言えば、グループIとIIは原油から精製した鉱物油、グループIIIは高度に精製した鉱物油、グループIVはPAO(化学合成油)、グループVはエステルなどそれ以外です。

グループIVやVは、化学的に合成して作ります。つまり原料も製造工程も、鉱物油とは別物です。 当然ながら、コストも違います。

内部リンク:レース用オイルと市販オイルは何が違うのか →

2. 添加剤

残りの1割から2割が添加剤です。清浄分散剤、酸化防止剤、耐摩耗剤、粘度指数向上剤など。

ここも価格に直結します。たとえば粘度指数向上剤を減らすために高性能なベースオイルを使えば、そのぶん原価は上がります。

内部リンク:USVO®とは →

3. 承認の取得

そして3つ目が、あまり説明されない要素です。ただ、これを理解するには、日本と欧州の違いから話す必要があります。

日本では、あまり知られていない「メーカー承認」

日本の車の取扱説明書を開くと、エンジンオイルの指定は多くの場合、次のように書かれています。

粘度:0W-20 / 規格:API SN以上、ILSAC GF-5以上

つまり粘度と、業界共通の規格で指定されています。この条件を満たすオイルなら、どのメーカーの製品でも使える。そういう考え方です。

ここでの「規格」は、API(米国石油協会)やILSAC、日本ならJASOといった、業界団体が定めた基準です。

だから日本では、「オイルを選ぶ=粘度と規格を確認する」という理解が一般的です。この理解自体は間違っていません。国産車であれば、それで足ります。

ところが欧州車では、話が変わります。

欧州では、承認が当たり前になっている理由

欧州車の取扱説明書には、こう書かれていることがあります。

使用可能なオイル:MB 229.51 / BMW Longlife-04 / VW 504 00

粘度ではなく、メーカーごとの承認番号で指定されています。

番号で指定される理由

理由はいくつか考えられます。

エンジンの設計思想がメーカーごとに違う。 同じ5W-30でも、求める粘度特性や添加剤の組み合わせは、車によって異なります。業界共通の規格では、その違いを表現しきれません。

後処理装置への配慮が要る。 DPFやGPFを搭載した車では、オイルに含まれる灰分の量が、フィルターの寿命に直結します。この制限はメーカーごとに細かく異なります。

長い交換インターバルを前提にしている。 走行条件に応じて交換時期を可変とする方式では、その全期間にわたって性能を維持できるオイルが必要です。

だから自動車メーカー自身が、「うちのエンジンで確かめて、合格したオイルだけを承認する」という仕組みを作りました。

内部リンク:粘度表示とメーカー承認規格の読み方 →

メーカー承認の価値を、日本の感覚で言うと

規格と承認の違いは、こう言い換えると分かりやすいかもしれません。

API・ACEA・ILSACなどの規格は、業界共通の検定です。 「この基準を満たしています」という証明になります。

メーカー承認は、その車を作った会社自身が出す合格証です。 「うちのエンジンで実際に試験して、通過しました」という証明です。

身近な例で言えば、スマートフォンの充電ケーブルに近い話です。「USB規格に準拠」と書かれたケーブルと、「Appleが認証したケーブル」(MFi認証)は、同じ「使える」でも意味が違います。前者は規格を満たしているという話で、後者はその機器の作り手が確認したという話です。

エンジンオイルの承認も、同じ構造です。

「相当品」との違い

市場には「VW 504 00相当」「BMW LL-04準拠」といった表現の製品があります。

これは承認を取得していないという意味です。処方が近いだけの場合もあれば、試験を受けていないだけで実質的に同等の場合もあります。ただし、その車のメーカーの検証を経ていないという点は変わりません。

確認できる形になっている

もうひとつ、承認の価値を支えている点があります。

承認品の一覧が、メーカーによっては公開されていることです。たとえばメルセデス・ベンツは、承認を取得した製品を一覧で公開しています。つまり「この製品は本当に承認されているのか」を、購入者が自分で確認できます。

承認を取るには、何が必要なのか

自動車メーカーは独自の試験プログラムを持っています。したがって承認を得るには、それを通過しなければなりません。

内容はメーカーによって異なりますが、おおむね次のような段階を踏みます。

  • 規格試験 — 業界規格の試験項目をクリアする
  • 台上試験 — 実際のエンジンを台上で長時間運転し、内部の状態を評価する
  • 実車試験 — 場合によっては、実際の車両で走行試験を行う

しかもこれには時間も費用もかかります。処方を変更すれば、原則として取り直しです。

承認取得にかかるコストを負担していないぶん、価格は下げられます。要するに価格差の一部は、ここから来ています。

安いオイルを入れると、何が起きるのか

正直に言います。短期的には、たいてい何も起きません。

指定粘度に合った、規格を満たすオイルを入れて、きちんと交換していれば、3,000km走った翌日にエンジンが壊れるようなことは起こりません。

差が出るのは、別のところです。

交換インターバルの終盤

粘度指数向上剤のポリマーは、せん断を受けると分子鎖が切れます。そして一度切れた鎖は戻りません。

新品の状態なら、どの製品もカタログどおりの粘度を持っています。つまり差が現れるのは、数千キロから数万キロを走ったあとです。

内部リンク:猛暑を走り切ったエンジンオイルに何が起きているか →

蒸発量の差

もうひとつ見落とされがちなのが、オイルがどれだけ蒸発して減るかです。

Noack蒸発量という指標があります。250℃で1時間保持したときの損失量で、ACEA C3の上限は13%。ところが製品によっては9%を下回るものもあります。

この差は、補充の頻度として現れます。安く買っても、足す量が多ければ差は縮まります。

後処理装置

DPFやGPFを搭載した車両で、SAPS(硫酸灰分・リン・硫黄)の多いオイルを使い続けると、フィルターに灰分が堆積します。

しかもこの灰分は、再生処理をしても除去できません。フィルターの交換費用は、オイル代の差額とは桁が違います。

内部リンク:ACEA規格の読み方 ― C1からC6まで →

長い交換インターバルとの関係

輸入車の多くは、走行条件に応じて交換時期を可変とする方式を採用しています。

この長いインターバルは、その期間にわたって性能を維持できることを試験で確認した承認オイルを前提に設定されています。 承認を持たないオイルで同じ距離を走らせるのは、根拠のない運用です。

「安いオイルを入れて、交換サイクルは純正と同じ」。これが最もリスクの高い組み合わせになります。

RAVENOLが「確認できる形」にしている理由

ここまで読むと、こう思われるかもしれません。「承認の有無は分かった。でも、それをどうやって確かめればいいのか」。

その答えが、TDS(製品技術資料)です。

TDSで何が分かるのか

RAVENOLの製品ごとのTDSには、次の情報が載っています。HLS SAE 5W-30を例に見てみます。

承認(Approvals)と推奨(Recommendations)が、別の行に分かれて記載されています。

  • 承認:BMW Longlife-04、MB 229.51、MB 229.52、GM dexos2、Opel OV 040 1547 – D30
  • 推奨:VW 502 00、VW 505 00、VW 505 01、PSA B71 2290、Renault RN17 など

この2つを分けて書いているかどうかは、製品情報を読むときの大事な判断材料です。 承認は自動車メーカーの試験を通過したもの、推奨は潤滑油メーカーが自社の判断で適合を表明したものだからです。

そして数値も載っています。

項目HLS SAE 5W-30
粘度指数(VI)166
HTHS粘度(150℃)3.68 mPa·s
Noack蒸発量8.9%
硫酸灰分0.69 %wt.

カタログの文句ではなく、測定値で判断できるということです。

購入前に、TDSの中身を見る

オイルを選ぶときは、価格や口コミだけでなく、次の3点を確認してみてください。

  1. 承認と推奨が分けて書かれているか
  2. 粘度指数、HTHS粘度、Noack蒸発量といった数値が載っているか
  3. 自分の車の指定する承認が、承認の欄に入っているか

製品情報の公開範囲は、メーカーや製品によって異なります。購入前に確認できるかどうか自体が、判断材料になります。

内部リンク:RAVENOL HLS SAE 5W-30 とは →

オイル交換の価格に納得して選ぶ順序

順番はいつも同じです。

  1. 取扱説明書で、指定粘度と指定規格・承認を確認する
  2. それを満たす製品に絞り込む
  3. その範囲内で、TDSの数値を見比べ、予算と使い方に合わせて選ぶ

3番から入ると、判断を誤ります。「評判のいい安いオイル」を探してから粘度を確認する、という順序では、承認の確認が抜け落ちます。

国産車で、指定が粘度と規格だけなら、選択肢は広い。 一方、欧州車で承認が指定されているなら、承認の欄を見るところから始めてください。

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